しばらく前,さる著名な作家が亡くなったときのスポーツ新聞の報道で,福祉活動で知られる (元?) 女優が 「事実上の夫人」 として談話を寄せているのを読んだ。これは,犯罪報道などでよく使われる 「内縁の妻」 という言い方では,名士に対して余りにも失礼と考えた編集部の苦肉の策であろうが,「事実上の夫人」 というのは,いずれにしても耳慣れない表現である。
1970年代に流行った 「同棲」 も,社会的に認知されたことばとは言えないし,ときどき聞く 「事実婚」 も一般化した言い方ではないと思われる。ちなみに,法律的に正式な 「内縁」 は,ある国語辞典によると,明治時代中期まで 「披露を済ませていない親族関係」 をさすことばだったらしいが,現代では独特のマイナスのイメージがつきまとって,公の場で 「私たちは内縁関係です」とはとても言えない。
フィンランドでは,日本風に言うなら 「籍を入れない男女の同居生活」 が社会的に認知されていて,avoliitto (avo- 「開かれた」 + liitto 「結び付き」) という言い方をふつうに使うことができる。これに対して,男女の法律的に認められた婚姻関係は avioliitto (avio- 「結婚の」 + liitto「結び付き」) と言う。同じ原理で,正式な婚姻関係にもとづく妻は aviovaimo (vaimo 「妻」),入籍の行われていない妻は avovaimo と呼び分けることができる。「結婚と事実婚は i があるかないかの違い」 と語呂で覚えるのが便利だが,さてどっちが「愛」のある形態だっけと深く考えすぎる人にはかえって紛らわしいかもしれない。
離婚 (avioero < avio- + ero 「分離」) が多くなると,当然,子連れ同士の再婚も多くなる。このようにしてできる新しい家族の形態を指す最近の流行語 (?) は, 「再生紙」 (uusiopaperi < uusio- 「再生」 + paperi 「紙」) にならって作られた 「再生家族」 (uusioperhe < uusio- + perhe 「家族」 ) である。フィンランド語の uusio は 「新しい」 を意味する uusi という形容詞から作られているので,「新しく生まれ変わった」 というニュアンスが前面に出て,日本語の 「再生」 がもつ 「再利用」 というイメージのない,明るいことばである。