ウラル諸語 (Uralic)


スカンジナビア半島北部,フィンランド,バルト海周辺,ロシア,西シベリア,ハンガリーなどで話されている言語のグループ。フィン・ウゴル諸語サモエード諸語に大きく分かれ, 話者の総数は2,500万人程度 (cf. ウラル諸語の話者人口)。代表的な言語は, ハンガリー語 (1,500万人), フィンランド語 (500万人), エストニア語 (100万人) で,いずれも独立国の国語となっている。

ハンガリー語・フィンランド語をはじめとする多くの言語で,母音調和の現象が見られる。一般に接尾辞を用い, 膠着性が高い。一部の言語を除き, ほぼ完全な後置詞言語である。名詞には,文法性の区別がなく,ハンガリー語の20格前後,フィンランド語・エストニア語の14格など,豊かな形態格の体系をもつ言語が多い。形容詞・属格名詞など名詞の修飾語は, 一般に名詞に先行する。語順は, 地理的に東の言語ではSOV型が優勢, 西に行くほどSVO型が優勢になる。アルタイ諸語, ユカギル語などとの同系説がある。

ウラル諸語の中で,比較的古くからまとまったテクストをもっている言語は,ハンガリー語 (Halotti Beszéd『弔辞』, 13世紀初頭),エストニア語 (Kullamaa vakuraamat『クラマーの祈祷書』, 1520年代初め),フィンランド語 (M. Agricola: Abckirja『ABCの本』, 1543年ころ) である。現存するウラル諸語の古いテクストには,このほかに,白樺の樹皮に書かれたカレリア語の呪文 (12語;13世紀初頭) や,古ペルム文字で書かれた古コミ語のテクスト (205語;16世紀初頭以降) がある。

ウラル諸語の話し手の諸民族は,そのおかれた社会状況によって3つのグループに区分することができる。数字は,それぞれの民族に属すると考える人々の数を表し,一般に,それぞれの民族語の話者の数より多くなっている。

  1. 国家を形成している民族: 国民国家が存在し,文学・新聞・公共放送・学校教育・大学・学術研究など,文化のあらゆる分野で母語の使用が制度化されている。これらの民族の国語には,400~800 年にわたる書きことばの伝統がある。
    ハンガリー人約 1,500万人 フィンランド人約 500万人
    エストニア人約 120万人
  2. 「中規模」 の民族: ソ連時代に 「自治共和国」 の地位を与えられていた民族。民族語が書きことばとして用いられるものの,母語による文化活動 (文学,新聞,学校教育など) は限定されており,高等教育や学術研究はロシア語によって行われている。
    モルドビン人約 120万人 ウドムルト人約 75万人
    マリ人約 62万人 コミ人約 50万人
  3. 小さな民族: 民族語は,一般に家庭や小規模な共同体内での使用に限られ,居住地域の多数民族 (ロシア語, ノルウェー語, フィンランド語) への同化が進行しつつある。ほとんどの言語で書きことばの導入が試みられたが,現在,サーミ語, ハンティ語, ネネツ語を除くと,事実上使われていない。
    カレリア人13万人 サーミ人5~8万人
    ネネツ人2万5千人 ハンティ人2万1千人
    ベプス人1万3千人 マンシ人8千人
    セリクプ人4千人 ガナサン人1000人
    イジョール人700~800人 エネツ人400人
    ボート人約 60人 リーブ人30~40人

更新日: 2008/02/09